Espiazione








はじめまして、ONOWIR(オノワー)と申します。
今回携わらせて戴いたこの動画について、歌詞の割り振りや背景ストーリー、楽曲のミキシング等を担当した者としてお話をさせて戴こうと思います。
いわゆる解説ページです。
動画をご覧になった方へ、知っていると更に楽しめるものであればと思います。








まずこの曲に組み込んだシナリオ:

プロレタリア作家3名で潜書していたが、ふと自身の想いに疑心を抱いたなかのせんせは侵蝕者の手に落ち囚われてしまう。
消耗激しいこばやしせんせととくながせんせは再びなかのせんせを迎えに行くための潜書の約束をして大人しく補修に入った。

終わらない迷路の中にいるなかのせんせの意志を取り戻さんと、もりせんせとさかぐちせんせの援護を受けほりせんせ、むろおせんせ、みよしせんせが向かいその心に語り掛ける。

疑心と悔悟を繰り返した精神にもたらされた温もりと寄り添いと叱咤を受けて葛藤の末、ぽつりと零れた希望を駆けつけた同志たちは確かに拾い上げた。
そうして復活し侵蝕者の囲いから脱したなかのせんせは仲間たちとともに浄化を完遂する。



キャプションにも記載して戴いたこちらを念頭に置いてお読みくださいませ。






まず、敵について。
この潜書でのボスは【侵蝕者なかのせんせ?】と想定しております。
土日棚の4冊目、最奥で待ち構えている【死の渇望】と同等の存在だと思って戴ければ想像しやすいでしょうか…。
曲名である『Espiazione』とは、イタリア語で【贖罪】を意味するそうです。
おそらくはなかのせんせが抱えているであろうあらゆる負の感情を持ち合わせて形を得たものでしょう。
故に、潜書対象であるご本はなかのせんせの書かれたものではないでしょうか。
浅学かつ感受性が激しく先生方の著作に迂闊に手が出せない身ですのでこれだ、と特定ができないのが歯痒いのですが、思い当たる方は是非「あの本かな…?」と推測してみて戴ければ幸いです。
それぞれ思い浮かべるご本は違うかもしれませんが、それら全てが間違いなのではなくみな正解なのだと思います。



1番はプロレタリア作家たちの潜書シーンです。
唄い出しの『森を通り過ぎた風』は潜書風景にある木々の茂る背景を想像して戴ければと思います。
順調に戦闘を続けて辿り着いた先に【侵蝕者なかのせんせ?】がいて、なかのせんせ本人は勿論のこと、こばやしせんせもとくながせんせもさぞ驚愕、もしくは動揺したことでしょう。
物語はここから始まります。

唄い出しがなかのせんせ→とくながせんせ(一部こばやしせんせユニゾン)なのは、
こばやしせんせは「かつての貴女」は知っているけれど「【歪に悲しく笑う】かつての貴女」を識らないのでここだけにして、
とくながせんせはそんな風に笑うなかのせんせを識っているのでメインパートを引き継ぐようにしてあります。


『叫んだ声と涙に似てた、届かない想いは』(とくながせんせ、こばやしせんせ)


なかのせんせのことなのでお2人が担当しています。
とくながせんせが特によく分かってらっしゃると思うのでメインを唄って戴きました。

ここでパート替えするのは文脈が変わるからです。


フレーズ上:
叫んだ声と涙に似てた/届かない想いはこの手から消え/閃を描く弧は命を掛けた貴女が望んだ結末?

歌詞文脈別解釈:
叫んだ声と涙に似てた届かない想いは/この手から消え閃を描く弧は命を掛けた貴女が望んだ結末?


ここで問いかけです。
Q.閃を描く弧 とは?

A.この手から消え閃を描く弧=本から変化して振り抜いた自身の刃

としてあります。
ここに、もう1つ意味を持たせました。


『叫んだ声と涙に似てた、届かない想いは
 この手から消え閃を描く弧は命を掛けた貴女が望んだ結末?』


→こばやしせんせの流した血の道、プロレタリアートの意志が潰え冬に向かう流れを暗喩としてあります。

同時に、
貴女が望んだ結末?(本当に?)←なかのせんせ、とくながせんせ(メイン)
なのに対し、
貴女が望んだ結末(結果そうなっただけだ)←こばやしせんせ(ハモり)
なので、こばやしせんせの方はクエスチョンにならない、言い切りのニュアンスを持たせています。

それがこのまま


『終わらない御伽と、寂れた世界は
 まるで総譜が記す未来のように』


にかかってきます。
冬の時代と大戦、そしてその後を識るなかのせんせととくながせんせだけで担当して戴きました。


『深い闇に溶けてしまう狭間で』

こばやしせんせだけ『狭間』を唄っていないのは自身が時代の闇に葬られるからです。



さてサビですが、本来は先生方の反撃が始まるはずだったところです。


『詠おう、もう一度』


こばやしせんせメインでとくながせんせが遅れて入るハモリです。
こばやしせんせは確固たる意思で言えます。
ちょっぴり遅れて途中からだけどとくながせんせも言えました。

なかのせんせは言えなかったんですね。

いけない、と首を振って自分も加勢しようとしたのが次の行です。


『幾重の音は誰かのココロを、きっと救えたのだから』
「幾重の音は誰かのココロを、……。」

こばやしせんせとくながせんせ両名は確信できていますが、ここでなかのせんせは言葉に詰まって歩みが止まってしまったんですね。

( ほんとうに? )
( 本当に救えたのか? )

こんな感じで自問したのではないでしょうか。
ここから先は当時に心が囚われたなかのせんせの叫びと悔いになっています。


『幾重の音は誰かのココロを、きっと救えたのだから』の歌詞をきっかけに、場面がなかのせんせの心の世界に切り替わっています。
自問したところで完全に呑まれてしまったから。
ここ以降で堂々と全部唄えてるのはとくながせんせだけです。


『悪夢がその声を貫く前に』


言わずもがな「こばやしせんせが殺されること」の暗喩です。

なかのせんせ「(転向して歪なものへと)変わり果てた私をどうか、許してくれ」
こばやしせんせ「(死して)変わり果てた(姿になった)私をどうか、許してくれ」

とくながせんせは「許してくれ」とは言いますが、 変わり果てた とは思っていないからそうは唄いません。


零れ落ちた〜からは分かりやすく書くと、

『零れ落ちた私の手に残るのは
 ”(共に生きたという)過去、朧げに思い出した歌と
  世界を変えようとしたその声” 』

といったところでしょうか。

サビが終わるまでずっとこばやしせんせがハモリしかしていないのは、

零れ落ちて残ってないからだし、
共に生きているのは過去じゃないし、
思い出される方だし、
世界を変えようとした(結果命を落とした)から。


『世界を変えようとしたその声』


なかのせんせはこばやしせんせのことを唄おうとして、声が詰まってしまい言えませんでした。
メインを唄うとくながせんせとハモリを唄うこばやしせんせだけがはっきりと、【なかのせんせは最後まで闘ったのだ】と言っているのです。



この1番サビで、なかのせんせという戦力を失ったこばやしせんせととくながせんせは2人で【侵蝕者なかのせんせ?】に挑みましたが手酷くやられたため、
薄黒い球面体【猜疑心の繭(さいぎしんのまゆ】の中に囚われたなかのせんせを置いて一時撤退せざるを得なくなり、それぞれ補修室のベッドに入ります。
1番が終わってすぐのところで入る効果音は補修室のカーテンが閉まる音です。

お2人とも、とても悔しい想いでいたことでしょう。

けれど、なかのせんせを案じていたのは彼らだけではありません。
もりせんせとさかぐちせんせの援護とともに入れ替わるようにして、ほりせんせにむろおせんせとみよしせんせの合わせて5名が、
2番でなかのせんせの救出(説得)にやってきます。



先導と援護のさかぐちせんせともりせんせで2番のAメロを担います。

人になろうとしたのはさかぐちせんせ、
人を越えようして報いを受けたのはもりせんせ。

なかのせんせのその心境を解せるのはこのチョイスだろうなあ、と思いました。
情を叫ぶ鴉と、権威の枷をはめられた医者。
どちらもツギハギだらけのパッチワークみたいだな、と。
それがそのまま、『繋ぎ目だらけの音で彩られてく』に反映されています。

彼らに道中の援護を受けながらほりせんせ、むろおせんせ、みよしせんせの3名が登場します。
それがBメロです。

ほりせんせ:若い頃からの親友
むろおせんせ:師事した親的存在

ここはすんなりと。
ただ、むろおせんせに関しては【母】というダブルミーニングも潜ませてあります。


『初めて紡いだ不安定すぎた音でも愛したいと思ってた』
『揺蕩う意識触れた気がした、まるで母のような欠片』


なかのせんせがメインでほりせんせむろおせんせがハモリなのは、外からの2人の声になかのせんせが呼応してその頃を思い出しているからです。
【猜疑心の繭】の外からなかのせんせに呼び掛けているんですね。
ですが、お2人の言葉よりも心のもっと深い部分をみよしせんせが刺しました。
それがなかのせんせとみよしせんせでユニゾンになっている、


『溺れゆく最中、離した両手は
 まるでウィザリアの悪夢のように
 続きを書くことを忘れていった』


ここです。

溺れゆく最中→時代の流れ
離した両手→手離す/諦める/零れ落ちていったもの
まるでウィザリアの悪夢のように→大戦を識りその後も長く生きた人たち
続きを書くことを忘れていった→何らかの背景で書きたいように書けなくなった人たち

といった感じで当てはめています。

さてここから2番のサビです。


『「詠おう、何度でも」』

メインをほりせんせ、むろおせんせ、みよしせんせが、
ハモリをさかぐちせんせ、もりせんせで唄っています。
各々手を差し伸べたり鼓舞したりして訴えてるシーンですね。

『そう願う声は、』まで唄っているのはそのまま声掛けを続けた人たちです。

さてこのあと1人だけなかのせんせにハモる人がいますね?
むろおせんせです。
Q.彼は何をしたと思う?

ヒント
なかのせんせ視点:耳を塞ぎ続けた私への咎に貴女が振り下ろす
むろおせんせ視点:耳を塞ぎ続けた私への咎に貴女が振り下ろす哀しい歌で



A.発砲した

なかのせんせを閉じ込めてる──閉じ籠ってるともいう──殻、【猜疑心の繭】を撃ったんですね。

もりせんせ視点:貴女が振り下ろす哀しい歌で

もりせんせがこう唄ってるのはそれを目撃したからです。
自分の咎を糾弾してほしかったなかのせんせの弱さに、むろおせんせは哀しい歌を打ち込んで叱責と同時に激励したんですね。
いわば自ら弟子を傷つける行動に出ました。
必要だと思ったから。
師の手で引導を渡してやったんです。
ちなみにむろおせんせの意図を理解したもりせんせも追撃して叱咤しています。
発砲音や斬撃音と一緒に何かが割れるような音がしているのは、むろおせんせともりせんせの攻撃で【猜疑心の繭】が傷つき少し大きな割れ目ができたからです。

これによってなかのせんせの心の風通しが少しよくなりました。
そうなることでよりみよしせんせの『もし続きを書くことが許されるのなら』に強く惹かれたんですね。
遂にみんなの声が届きました。

その届いた声が『泣くことなど出来ない貴女と共に』です。

ほりせんせ「しげじの優しさを僕はよく識ってるよ」
むろおせんせ「俺はしげが強いことを知ってるぞ」
みよしせんせ「その痛みは自分にも少なからず分かります」
お3方の想いとしてはこんな感じです。

そのあとの言葉がまた強い想いですよね。


『誰かを救えるなら』


メインをなかのせんせともりせんせ、
遅れてインするのがさかぐちせんせ、
ハモリをほりせんせ、むろおせんせ、みよしせんせが唄っています。

自分は本当に誰かを救えたのか、疑心に囚われているなかのせんせにとってとても魅力的で、強烈な言葉だったでしょう。
もし自分が、誰かを救えるというのなら。
なかのせんせには一筋の光明が差し込んできたように感じ取れたのではないでしょうか。

それから、さかぐちせんせが『誰か』と言わずに遅れてメインパートに参加するのは、とっさに思い浮かべたのはなかのせんせではなかったからです。
彼には既に【守るべきもの】がありますから。
脳裏をよぎったのはなかのせんせではなく、大切な鴉たちでした。
そのため、よくよく見てみると少しうしろめたいような表情をしていると思います。

なお、ハモリの3人ははっきりとなかのせんせを見据えていました。
泣けない、泣こうとしないなかのせんせと一緒に、他ならぬあなたを救えるなら。
お3方はそう言っているんですね。


『御伽のような深い闇の中』


冬の時代も込みで大戦の暗喩です。
なので大戦後も長く生きた方々の担当になりました。
自分たちもその闇を往こうって間接的に言ってるんですよね、ここで。
一緒に背負うよ、って。

そう語り掛けてきたことでようやくなかのせんせがその声に応えます。
とてもおずおずと、自信なさげに。
それが次の歌詞にあたります。


『離した手にもう一度だけ』


メイン(全部):ほりせんせ
メイン(前半):もりせんせ
メイン(後半):むろおせんせ

ハモリ(前半):みよしせんせ、さかぐちせんせ
ハモリ(後半):なかのせんせ

それぞれ、
離した手に:諦めた、もしくは取り零してしまった人たち
もう一度だけ:それでも手を伸ばした人たち
で当てはめてあります。

このフレーズを全てメインで毅然と唄っているのはほりせんせのみです。
この曲におけるほりせんせは、文壇のアイドルでも癒しでもない「強い人」というイメージで通しています。
メインパートでもハモリでも筆頭にほりせんせがいるのは、この救出(説得)部隊の中でもとりわけなかのせんせに寄り添い歩く意志が強いから。
固い決意、救出や説得に向かったメンバーの中でも頭1つ飛び抜けている印象です。
動画を通して観てみると、ほりせんせの表情の多くはキリッとしているのが分かると思います。





さあ、山場です。
間奏(なかのせんせにとっては差し伸べられた手を取るかどうかの葛藤)を終えて、
遂になかのせんせがこわごわと答えを出します。


『詠おう、もう一度
 幾重の音は誰かのココロをきっと救えたのだから』


とっても弱い、頼りない感じで入ります。
音も震えて、少しズレた音階のまま、拙いながらもたしかに伸べられた手を取ろうとします。
ですが、自信はあまりありません。
まだ揺れています。
事実、なかのせんせは『救えたのだ』までは弱々しく唄っています。
これを補強して固めたのが補修を終えて追いついた、『救えたのだから!』となかのせんせに合わせてはっきりと唄ったこばやしせんせととくながせんせです。
なかのせんせが伸ばした震える手を心ごと文字通り引っ張り上げたといいますか。
最後の1歩を後押ししたんですね。

それでなかのせんせの心は決まりました。

囚われの【猜疑心の繭】から解放……脱せたなかのせんせはもう迷いません。
一緒に刃を握って戦います。


『悪夢がその声を貫く前に』


大戦を識ってる人たち6人で。
メインハモリの基準は寿命の長さです。


『変わり果てた私をどうか、許してくれ』

メイン:60以上生きた人たち
「(老いて)変わり果てた(姿になった)私をどうか、許してくれ」

ハモリ:60まで生きられなかった人たち
「(死して)変わり果てた(物言わぬ)私をどうか、許してくれ」

動画では全員の享年を、60以上生きた方々を正位置で、60まで生きられなかった方々を鏡文字で表示してあります。
確認段階で画像を見せて戴いたとき、こばやしせんせのあまりの命の短さが目立ってとても心が苦しくなりました。


『零れ落ちた私の手に残るのは』=最も長く生きた人
『共に生きたという過去』=最も早く亡くなった人


に、それぞれハモリをお願いしています。


『朧げに思い出した歌と』


メイン(全部):なかのせんせ
体言止め:もりせんせ、さかぐちせんせ
ハモリ:むろおせんせ、みよしせんせ

こばやしせんせとくながせんせを除いて、

体言止め:指環で銃を手にとった人たち
ハモリ:元から銃を携えてる人たち

に唄って戴いてます。
ここで、もりせんせ、さかぐちせんせ、みよしせんせ、ほりせんせ、むろおせんせの5人は指環を装着して武器を変更します。
元々刃を扱うなかのせんせ、こばやしせんせ、とくながせんせの前衛会派にむろおせんせが加わり、
飛び道具である銃と弓を扱うもりせんせ、さかぐちせんせ、みよしせんせ、ほりせんせは後衛として会派を組み、ここに前衛と後衛の連合会派が成立します。


『世界を変えようとしたその声』


全員
世界を:もりせんせ、さかぐちせんせ
世界を変えようとした:むろおせんせ、ほりせんせ、みよしせんせ
世界を変えようとしたその声:なかのせんせ、こばやしせんせ、とくながせんせ

で唄っています。
だんだんと人数が抜けていって、最後にプロレタリアのお3方が残るようにしています。
1番で唄えなかった【最後まで闘いきったのだ】という意図を、なかのせんせも自信を持って言えました。



いざ、【猜疑心の繭】を操る【侵蝕者なかのせんせ?】との戦闘開始です。



もりせんせとさかぐちせんせが道を作って、むろおせんせほりせんせみよしせんせが援護して、
こばやしせんせとくながせんせが進み、なかのせんせでとどめです。




─────浄化完了













以上、この曲の歌詞の割り振りに込めた想いと物語でした。
思った以上に長くなってしまって、ここまで全部読んでくださった方には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

どうかこの動画を観て感じたことがありましたら、是非動画にコメントを付けてやってください。
凝ったものでなくていいのです。
あなたが思ったことを、そのまま打ち込んでみてください。
それだけで、この動画に携わった私たちは報われます。


最後になりましたが、ここまでご覧戴き本当にありがとうございました。




2021/7/23  ONOWIR



2022/7/18 追記
音楽方面の解説ページを作りました、よろしければこちらもご覧ください。
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